読んでみた「だれも知らない小さな国」

佐藤さとるさんが亡くなってしまいました。これを機にこどものころ読めなかった「だれも知らない小さな国」を読んでみました。

佐藤さとるさんの作品では小学生当時「おばあさんのひこうき」「ひみつのかたつむり号」「ぼくのつくえはぼくの国」なんかが好きでしたがコロボックル物語はなぜか苦手意識があったのです。
読んでみてその理由がわかりました。物語が丁寧すぎて小人がなかなか出てこないのです。そして主人公がおっさん。


多くのこの本を読んでいない方がタイトルや村上勉さんのイラストから想像するであろう物語は、小人の国に迷い込んだ少年たちが彼らと友情を育みながら、ともに困難を乗り越えていく冒険譚だろうと思うのですが。


実際の物語は、子供の頃、ちらりと見ただけの小人の姿をずっと心に留めながらたった一人で田舎暮らしをはじめたおっさん主人公が、サラリーマンをしながら小屋を作ったり山を手に入れるための地味な作業をちまちま続けるという話が前半で、後半はそれにやっと出てきた小人が加わって力を合わせてさらにちまちま地味な作業を続けるというお話でした。


ところがこれが面白いのです。丁寧に描写される自然や山々の情景、主人公の小人たちへの考察はまるでドキュメンタリーを見ているようですし、物語のリアルとファンタジーの境界が本当に絶妙で、子どもならこれは本当にあったんじゃないかしら、と思ってしまいそう。
派手なアクションやバトルなんかは全く無いのですが、現れては去るヒロイン的女性の存在もなかなかむずがゆく、物語をじわじわ牽引していくポイントになっております。
後半は一気に読んでしまいましたが、地味ながらも見事な大団円に余韻も実に清々しく、良いものを読んだなあと大満足で本を閉じることが出来ました。


この国やあの人たちがどうなってしまうのか? 気になる私はそのうち続編を手にすることになるでしょうけども、今はまだしばらくこの余韻に浸っていたいな、そう思える良い読書でした。