楚々として美しく

遅れなせながら『ビブリア古書堂の事件手帖』を読んでおります。


古本浪漫堂周りの本好き古本好きの男どもをことごとく篭絡せしめている栞子という女人を如何にしてやろうかと意気揚々乗り込んでみたわけですが、こいつはなるほどなかなかの手練れでありまして、返り討ちに合い、骨抜きにされかけ、ほうほうの体で逃げ帰ってまいりました。


はかなさと知性を眼鏡に隠し、つややかな黒髪に豊かな母性を胸に秘め、あからさまにも臆面も無く、本好き男子の夢とチボーと少量の欲望を煮詰めて蒸留させたエキスから抽出したニンフのごときその姿、なるほど納得の魔性っぷり。


魔性の彼女が、ほだされワトソン五浦君と、ビブリア古書堂に持ち込まれるさまざまな謎を豊富な古書知識と類まれなる洞察力で快刀乱麻に切りまくる、という最近流行りのありがちな業界ミステリではありますが、謎とストーリー、うんちくとキャラクターの妙が手堅く無理なく纏め上げられており、シリーズを通しての大きな謎を絶妙なさじ加減で紐解いてゆきつつ読者を物語へと引き込んでゆく作者のその手腕はなかなかの剛力、もとい豪腕ではないでしょうかすばらしい。


さて、ここからは主観でありますが、ミステリ界の本好きヒロインとして密やかにトップの座に君臨していた孤高の女王といえば北村薫『空飛ぶ馬』シリーズのあの人であることに異論はないものと思われます。

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)


新刊が出るのを心待ちにしながら夢中で読んでいたあの頃、当時好きだった女性に「本好きの男ってこういう女の子好きだよねえ」とジト目で言われたことも今となってはいい思い出です。栞子好きの男性諸氏もおそらく同じ経験をしていることでしょう。


表紙に描かれたイラスト以外は容姿に関する描写はあまりなかったと思われる名もなき彼女が如何に当時のミステリ男子の心を掴んで離さなかったかをふまえつつ、新旧のヒロインを比べてみるのもおもしろいかもしれません。こちらも本好き、ミステリ好きにはたまらない古本浪漫堂的太鼓判ポンの大傑作でございます。


ではまた。