クイーン「エジプト十字架の秘密」

クイーンの長編の魅力は、事件が一段落したかのように思えてからの怒涛の展開と、謎解きのスピード感ではないでしょうか?


海外の作品を読む上で挙げられる難点に、訳文のわかりににくさというものがあると思いますが、クイーンの作品に関しましては不思議と誰の訳でも違和感なく読めるといいますか、ストーリーのおもしろさにひきずられてついつい読まされてしまう感があります。
キャラクターにメリハリがあって他の人物と混同しにくいことや、地の文や会話文に見られる、読者を楽しませようというサービス精神にあふれたハッタリ(読者への挑戦や、クイーンの思わせぶりな台詞など)が実にうまく作用して、あまり訳文であることを意識せずに読まされている気がします。


この作品、はりつけにされた3つの首無し死体、と言う具合にまことにけれん味たっぷりのミステリなのですが、首無しといえばあのトリックだろうとなあ、と勘ぐるすれっからしのミステリファンを煙に巻く二重三重のしかけと、ちりばめられた伏線の数々を見事にスルーして来た私は、真犯人の名前が出た時は本当に心のそこから驚きました。
いやあ本当、後半ファミコンの推理アドベンチャーばりにあちこち無意味に飛び回った甲斐がありましたなあ。(この部分も物語的にはあまり意味はありませんが、ここまで読まされている読者にはこのじらされている感がたまらないのです)


一部ネットで、このトリックは成立しないとか、ストーリーが破綻しているとかの意見も見つけました。なるほどと思う部分もありました、私もあまり深く読み込むほうではないので。
しかし、まあいいじゃん、おもしろいんだから。そういうところに気づかないほど夢中にさせてくれるのであればそれは名作ではありませんか?


所詮は作り話なんだから、読者を楽しくだましてくれれば良いのです。楽しい時間がすごせれば良いのです。


次は梶尾真治「サラマンダー殲滅」を読むぞ!タイトルもかっこいい。


ではまた。