「時を跳ねる少女」

よく考えると、「時をかける少女」はタイムスリップしたわけではないのですね。過去に肉体ごと戻ったのであればもう一人の自分に会うはずですし、つまりは意識だけ過去の自分に戻った、意識的に行なわれた「リプレイ」なのですなあ。すると未来の自分はどうなってしまうのか?過去に戻った瞬間に無かったことになるのかしら?そのへんはパラレルワールドやらタイムパラドックスやらで・・・、などなど考えるのは子供のときから好きでした。

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

〈プロジェクト〉を通して、自分の時空間跳躍能力に目覚めていく悠有。いっぽう、辺里の町では不穏な出来事が進行していた。続発する放火事件と、悠有に届けられた謎の脅迫状ー「モウ オマエニ ミライハ ナイ」。涼、コージン、饗子それぞれの思いが交錯するなか、いつしかぼくは微かな不安に囚われていた。−なぜ悠有は過去に跳ばないんだろう?そして花火大会の夜、彼女はぼくの前から姿を消した・・・・・・


サマー/タイム/トラベラー2」読了いたしました。
いやいや、だらだら読んでいたら、後半からとつぜん物語が動き出してそこからは一気にいってしまいました。
いつの間にかクライムノベルのような展開になったと思ったら、忘れていた謎解きとどんでん返し。そして、彼女は・・・。


彼女の時間跳躍は結局、短時間未来方向限定で跳ぶということに終始するのだが、よくある未来の自分に会う、ということがなぜ起きないのか、ということに頭の悪い私は当初気づかなかったわけですが、ドラえもんなど藤子マンガでおなじみのあの現象は、未来へ行った先から過去、あるいは現在へ帰って来られる、ということを前提にした現象なのですなあ。
行ったきりであればもう一人の自分などいないわけで、そこに着目したところがこの作品の新しいところなわけで・・・。


後半の犯人探しの部分などはやや蛇足的である気もしますが、(またそのオチかよ!って正直思いました。)本筋は非常に泣けます。なんだか、ここまでわりとぼんやり書かれていた彼女が採った選択にも丁寧に作られた積み重ねの説得力があります、主人公にも、読者にも納得できるような。
でもなあ、せつないなあ。せつないけどロマンだよなあ。これ以外ありえないよなあ。


正直、彼女の能力と、そのことにより起こっていること、ラストで彼はどういう状態で彼女にあったのか?など、良く理解していない部分もあるのですが、そういったことをあれこれ考えるのも時間SFの醍醐味であるように思えます。


あれこれ考えながら、しみじみ登場人物に共感し、今は遠い青春をひそやかに思い出しつつロマンに浸れたこの読書は私にとってはなかなかの至福の時間でありました。


ではまた。