筒井康隆「パプリカ」

読んじゃいましたよ「パプリカ」おもしろかった。

パプリカ (中公文庫)

パプリカ (中公文庫)

前回も書きましたが、筒井の「家族八景」を初めて読んだ時は、まったくとりとめの無い人間の思考というものを鮮やかに目に見える形で文章にしていることに畏怖に近い形の感動(筒井康隆は本当にテレパスであり、人の思考が実際このように見えているのだろうかとさえ思いました)を覚えたことをいまだに記憶していますが、今回筒井がこの作品で果たしたことはこれまたとりとめの無い夢の文章化であり、またその説得力のある描写に再びドギモを抜かれてしまいました。


実際、夢と現実の境界があやふやになっていく後半部分などを布団のなかで読んでいた時は、このまま寝てしまったら本気でやばいのではないか?という危機感と、もしかしたらパプリカに会えるかもというムフフな期待に自分の脳がとろけていっているかのようなトリップ感すら味わっておりました。


詳しい内容は省きますが、ラストのなんだか懐かしさすら憶えるジュブナイル的な幕引きは、全くロマンチッカー筒井先生分かっていらっしゃるなあ、とうれしくなってしまいました。
「エディプス」ではできなかった七瀬との決別が20年以上の時を超えてようやくかなった気がします。
ああ、でも「パプリカふたたび」も読みたいなあ、ありませんが。


映画版も観てみたいと思っています。後半のあのスペクタクルを考えるに映像にしたいと思う作家さんがいるのはわかります、が、そこばかりに気を取られてよくある不条理ものになってしまっていないかは心配です。筒井作品に不条理物の傑作はたくさんありますが、この作品のおもしろさはそこに特化したものではないと思いますので。


まあ、パプリカが魅力的であればいいような気もしますが・・・。そういう意味では非常に少年度の高い作品であるかもしれないなあ、パプリカの味方になる男性陣はすべて年齢も地位も相応のいい大人たちなのですがなんだかとても少年ぽいのです。


なお、私は予備知識どころか裏表紙のあらすじすら見ずに読み始めたため、パプリカの正体が解かった時は思わず声に出して驚いてしまいました。まあ、別にひねりは無いんですけど。


おすすめです。若い人がこれを読んでから七瀬三部作というのもありでしょう。


ではまた。